まず、種苗とは、植物の種や苗のことを指す。誰でも知っている「コシヒカリ」をはじめ、農作物にはさまざまなブランドがある。このブランドを守ろうというのが「種苗法」の根本だ。勝手に栽培されないように、勝手に外国に持ち出されないようにするため、今回、法改正が目指された。
日本が誇る品種は、これまで数多く海外流出している。「シャインマスカット」や「とちおとめ」は、すでに韓国や中国で栽培されている。
2018年2月の平昌五輪で、カーリング女子日本代表が韓国のイチゴを食べる場面が話題になったが、当時の斎藤健農水相は「日本から流出した品種をもとに、韓国で買われたものだ」と指摘している。つまり、日本の財産が勝手に持ち出された、ということだ。
今回の法改正で大きく変わるのは2つある。1つは、新品種を登録する場合、輸出先や栽培地域を自分で決定できること。これにより、意図しない海外流出が防げる。
もう1つは柴咲が、「日本の農家が窮地に立たされる」と指摘した自家採種の禁止。
農作物を育てれば、当然、種ができる。その種を再び使う場合、開発者に許諾が必要になるのだ。このため、農家は種や苗のコストが余分にかかってしまう。ただし、禁止される品種はコメの16%、みかんの2%、ぶどうの9%程度で、残りは自由に自家採種してかまわない。具体的には、お米の「コシヒカリ」「ひとめぼれ」「あきたこまち」はOKだが、「ゆめぴりか」は許可がいるということだ。
種苗法改正案に対し、当事者はどのような見方をしているのか。賛成と反対の意見を聞いてみた。
■賛成派の意見
民間でぶどうの育種を20年続けてきた「林ぶどう研究所」の林慎悟さんは、「今回の法改正は、育種家の立場としてはメリットが多い」と話す。
「私自身、『マスカットジパング』という新品種のぶどうを作った経験がありますが、開発には10年かかりました。品種登録の手続きは膨大ですし、その権利を守ることは容易ではありません。新品種の開発には、ものによっては数千万円、数億円かかるんです。
それでも、果樹の民間育種では、利益は数十万程度。100万円を超えて返ってくるケースはほとんど見たことがありません。現状、育種家の方で、開発にかかった費用を回収できている人は、民間では少ないでしょう。私自身、育種の恩師から『育種をすると貧乏になる』と言われたこともありました。
農業の生産現場は共支えです。育種によって、環境の変化に対応したり、生産管理しやすい品種を開発すれば、生産現場はコストダウンできて、リスクを減らして生産できる。育種する人間と生産する人間が揃ってこそ、初めてお互いに利益を生み出せるんです。
そういった意味で、今回の法改正は、育種家サイドに今よりも適切な利益をもたらしながら、いい意味での自由競争を促そうとしているものだと考えています」
柴咲に対して、ツイッターで「アーティストの楽曲をパクってもコピーしてもいいってことかな」といったコメントがあったが、要は、農作物の著作権を認めてほしい、という立場なのだ。
■反対派の意見
種苗法改正に反対する、市民セクター政策機構の代表専務理事・白井和宏さんは、「食糧自給率を高めるためにも、自家採種は認めるべきだ」と話す。
「新型コロナの影響で、海外では食糧の輸出を禁止し始めています。たとえばロシアは、6月末まで穀物の輸出停止を表明しています。世界で特に小麦は状況が厳しく、スパゲッティの生産もままならなくなってきた。日本では、家畜のエサとなるトウモロコシも大豆もはほとんど輸入ですから、これらが今後入ってこなくなれば、日本で家畜を育てることも難しくなるでしょう。
今までは輸入に頼ってきたし、これからもどんどん頼っていく方針でした。しかし、今後これまでどおりに輸入ができるかは不透明です。そのために、自家増殖の禁止などせず、国内の農家が自由に生産できるようにすべきです。
そして、外国人観光客が戻ってくれば、日本の種の価値が上がってくる。種を育成するための助成をおこない、地域を活性化していく施策を進めるべきなんです」
白井さんが、種苗法改正では日本の品種を守れないと考えるのは理由がある。それは、農水省に日本の農業を守る意思が感じられないからだ。
「今回の種苗法改正案は、2017年の『種子法』の廃止とセットで考えなければいけないんです。
種子法の廃止で、公的機関による種苗事業が民間に移され、種子の開発が止まりました。同時に、『農業競争力強化支援法』により、日本の財産である種苗を、外国企業も含めた民間企業に提供を促すことが決まったんです。
そこにきて、今回の種苗法改正案です。自家採取に規制をかければ、国内の自由な生産が抑制され、日本の農業は衰退する一方です。でも、政府としたら、日本の種子を日本企業や海外企業に買ってもらって、海外で生産してもらえばいい。海外の大規模な生産でより大きな利益が出ますから」
SNSでは、種苗法改正で「海外企業に日本の農業が乗っ取られる」という意見が頻出した。たとえば、海外の種子メーカーが、最初は安く種子を売り、その後、一気に値段を上げたとしても、農家はそれを買うしかない。実際に海外では、農民が種子メーカーに隷属するような状況も起きている。
賛成派の林さんは、「実際問題、僕らも苗が売れなければ収入はない。苗の値段を法外に引き上げることにはならないと考えています。農業も、市場原理のなかで動いていますから」と話す。
■日本の農業力を強くしたい
反対派の白井さんは、「もし海外での生産を防ごうとした場合、向こうで裁判を起こし、商標登録して戦うしかない。現実には種苗法で日本の種子は守れない」とも話す。賛成派の林さんも「コストを考えれば、裁判なんかやらないだろう」との意見だ。
実は、林さんも白井さんも、「日本の農業力を高めたい」という思いは一緒なのだ。
「農業は、平均年齢が60代、70代になってしまうような業界です。国内で生産を完結させるためにも、新規就農者が少ない現状を変え、ほかの業種からの参入も含めた振興が必要だという国の意図を、種子法廃止から一連の法改正で感じています。今の状況が10年続けば、日本の農業人口はおそらく10分の1になってしまう。そうなったとき、国民全員の食料を担保できるのか、僕は非常に疑問です」(林さん)
「農業人口は高齢化していますし、近年は異常気象も著しい。リスクを減らすという意味で、もう一度国内の生産力を高めることが大事になってくるでしょう」(白井さん)
目指す地点は一緒だが、賛成派と反対派の議論がかみ合わないのは、この法案がほとんど国民の間で議論されてこなかったからだ。柴咲コウも、「賛成、反対だけでなく、その間にある声も聞きながらベストを探っていく。その時間が必要だと思うのです」とツイートしている。
政府は通常国会の会期を延長しない方針を固めたため、今国会での種苗法改正は絶望的となった。
上記の状況は2020年5月頃ですが、現在はどうなっているのでしょうか。
国に新品種として登録された果物等の種や苗を海外へ無断で持ち出すことを規制する改正種苗法が、2020年12月2日の参議院本会議で可決成立しました。
「THE OWNER」なるサイトによりますと・・・
なぜ種苗法は改正されたのか?
種苗法はもともと1998年から施行されている法律だが、2021年4月からは改正された新種苗法の施行が決まっている。では、なぜ種苗法はこのタイミングで改正されたのだろうか。
従来の種苗法には、登録品種を海外に持ち出すことを規制する内容が含まれていなかった。その影響で、日本で開発された品種が海外に持ち出されるケースが増えており、輸出量の減少などにより開発者の利益が大きく損なわれていた。
具体例としては、ブドウの登録品種である「シャインマスカット」が挙げられるだろう。シャインマスカットは日本の研究機関が開発した品種だが、実はアジアには中国産や韓国産の製品が多く存在している。
これらの製品は日本のものより安く販売されており、もともとの開発者である日本は大きなダメージを受けてしまった。このような品種の流出を防ぐために、種苗法は改正されたのである。
ここからは、種苗法の改正内容について。主な改正点としては、以下の2つが挙げられる。
1.登録品種の育成者が、許諾なしで輸出国や栽培地域を選べるようになる
ひとつ目の改正点は、登録品種の輸出先に関する内容だ。新種苗法が施行されると、種苗の育成者(開発者)が輸出国や栽培地域を許諾なしで指定できるようになり、これに違反し指定の栽培地以外に持ち出した者には罰則が科せられる。
指定できる範囲は国内のみ、もしくは特定の都道府県のみとなるが、種苗が海外に持ち出されるリスクを抑えられる意味合いは大きい。また、育成者には差し止め請求をする権利も付与されるため、種苗の持ち出しに後から気づくようなケースにも対応可能だ。
2.登録品種の自家増殖をする場合に、育成者からの許可が必要になる
登録品種の自家増殖が制限される点も、農業関係者が押さえておきたいポイントになる。
これまでは、自治体などが優良な種苗を安く販売しており、その種苗を自家増殖させて利益を得る農家が存在していた。しかし、2021年4月からは育成者の許可を得ない限り、登録品種を自由に自家増殖させることができなくなる。
ちなみに、この制限の対象には個人も含まれるが、食べることのみを目的とした栽培は規制の対象外だ。あくまで、登録品種の持ち出しによる利益を規制するための改正なので、その点は誤解せずに覚えておきたい。
種苗法改正で日本はどうなる?
では、実際に種苗法が改正されると、日本にはどのような変化が生じるだろうか。
1.農家への影響
種苗法が改正されると、まず登録品種の育成者の権利がますます強まる。
例えば、個人的に種苗を開発する農家は長年にわたって独占的な販売体制を築けるので、育成者の利益は増える可能性が高い。また、ほかの農家による自家増殖を許可する代わりに、金銭を受け取れる可能性がある点も育成者にとっては大きなメリットになる。
その一方で、登録品種の自家増殖によって生計を立てていた農家は、経済的に大きなダメージを受ける。特に登録品種の割合が多い農作物を育てている農家は、別の農作物への転換を余儀なくされるケースも出てくるだろう。
2.一般家庭への影響
種苗法の改正によって農作物を転換する農家が増えると、特定の農作物の供給量が減ってしまう。その結果、これまで普通に購入していた食材が高騰したり、近所のスーパーに陳列されなくなったりといった影響は十分に想定されるので、一般家庭への影響も軽視はできない。
また、種苗の多様性が失われると、特定地域の食文化が衰退していく恐れもある。なお、前述の通り自家消費を目的とした栽培は規制対象外であるため、家庭菜園に関しては特に影響は生じないと予想される。
文・片山雄平(フリーライター・株式会社YOSCA編集者)
この改正種苗法は、種苗の開発者にとっては有り難いことでしょうが、登録された品種を自家栽培している農家は金銭を払わなければならないケースもあるでしようから、経済的負担になるかも。しかしわが国のみならす多くの国で、どの分野の世界でも知的財産権は認められつつあるようで、種苗だけさおざりにするちゅう訳にもいきませんから、難しい問題ですね。
そう、難しいといえば「F1」の問題でしょうね。
「F1」ゆうてもカーレースやおまへんで。
その「F1種」の中でもオシベがない「雄性不稔」と呼ばれる、生物学的には異常なタネが増えているそうです。今、世界の農家で使われている殆どのタネが「F1」と呼ばれる一世代限りしか使えないタネなのです。
次回は、この「F1種」について取り上げたいと思います。
ではでは。