袖振れ合うも多生の縁342~朝井まかてさんの「悪玉伝」の悪玉て、ほんまは誰なんやろか!?~

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私はいつの頃からか、朝井まかさんの著書追っかけ(?)を任じており、角川書店の「野性時代」に連載されていた「悪玉伝」が上梓されたので先般読破致しました。いゃあ、面白かった! 読み進めて行くと、「はて、題名の悪玉て一体誰なんやろか?」と思ってしまうように仕組まれていて、ついつい先を読み急いだのであります。そんな歴史エンタメの最高峰と評される「悪玉伝」の梗概をKADOKAWAのHPからコピペさせて頂きますと・・・

大坂の炭問屋・木津屋の主の吉兵衛は、稼業は番頭らに任せ、自らは放蕩の限りを尽くしてきた。そこへ実の兄・久佐衛門の訃報が伝えられる。実家である薪問屋・辰巳屋へ赴き、兄の葬儀の手筈を整える吉兵衛だったが、辰巳屋の大番頭・与兵衛や甥の乙之助に手を引くように迫られると、事態は辰巳屋の相続争いに発展する。上方で起こった相続争いの噂はやがて江戸に届き、将軍・徳川吉宗や寺社奉行・大岡越前守忠相の耳に入る一大事に。将軍吉宗までも巻き込んだ江戸時代最大の贈収賄疑獄事件の結末は――。
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デビュー当時から書きたいと思ってはいたものの、「史実がフィクションみたいに面白すぎて」執筆を留め置いていたと著者が語るのは、江戸時代最大の贈収賄事件「辰巳屋一件」。大岡越前守忠相が実際に裁いたとされるこの事件は、大坂の一商人・木津屋吉兵衛が、実家の辰巳屋の相続争いに巻き込まれ、騒動はなぜか時の将軍・徳川吉宗の耳にまで届く一大事に発展していく、というもの。
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               (上は徳川吉宗、下は大岡越前)

物語は吉兵衛(大坂)と、官僚人生も下り坂に差し掛かった大岡越前(江戸)の両視点で進む。裁判制度が確立していく過渡期に起こったこの事件で炙(あぶ)り出されていくのは、当時の上方で典型的な粋な男の吉兵衛と、政(まつりごと)の第一線でバリバリ働いてきた大岡越前を取り巻く東西の文化の違いだ。人情と口八丁を武器とする吉兵衛にとっての“ご挨拶”は贈り物か、それとも賄賂か。忖度(そんたく)が忖度を呼び、事件が拡大していくさまは、さながら昨今の事件を彷彿(ほうふつ)させる。

いゃあ、うまいこと作品を要約してはりますな。私が付け加えることなんもあらしませんがな。
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それから文芸評論家の杉江松恋(写真上)さん、ほら、あのユーモラスなまん丸顔のお人は、《朝井の着眼点が優れているのは、この事件を善悪の対決図式ではなく、いくつもの大義が存在し、力を持つ者の思惑次第で白黒がいつでも塗り替えられる、政治の所産として見たことだ》(週刊新潮・書評)と評していはりますが、これ又ポイントをぐさっと突いてると思います。他に何かないかとPCを検索してたら、KADOKAWA発の文芸情報サイト カドブンに作者へのインタビュー記事がありました。これも又私が聞きたいこと、知りたいことを満遍なく網羅してくれてますので、少し長いですが全文コピペさせて貰います。(写真は私が適宜インサートさせて頂きました)
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──新作は、八代将軍・徳川吉宗の時代に、大坂の豪商・辰巳屋で実際に起きた相続争い「辰巳屋一件」を題材にされています。なぜ、この事件を選ばれたのでしょうか。

朝井:大坂の町家で起きた相続争いが、江戸であの大岡越前が裁く大騒動にまで発展したのが面白く、以前から興味を持っていました。

──辰巳屋久佐衛門が死んで、木津屋に養子に入っていた弟の吉兵衛が戻ってきたところから物語は始まります。久佐衛門は、辰巳屋を上回る豪商、唐金屋の息子・乙之助を養子にし、娘の伊波と結婚させていました。そこに乗り込んできた吉兵衛は、長くお家乗っ取りを目論む悪役とされてきましたが、朝井さんは今までとは違った見方をされていました。

朝井:舞台化された「女舞剣紅楓(おんなまいつるぎのもみじ)」も、吉兵衛の乗っ取りから辰巳屋を守った唐金屋側からの忠義の物語になっています。ただ、吉兵衛について残っている風聞を調べると、粋で趣味人で、お金の遣い方も後先を考えない、つまり典型的な上方のボンボンです。そんな鼻持ちならない二枚目がとことん追い込まれたらどんな真実を見せるのか、そこに興味があって、ワクワクしながら書きましたね(笑)。さらに大岡越前に目を転じてみたら、事件には政治や経済の問題が複雑に絡んでいたのではないかという想像が働きました。

──吉兵衛は、大坂の役人に賄賂を渡して裁判を有利にしたとされていますが、本書ではまったく違った解釈になっていました。

朝井:当時は儀礼社会ですから、賄賂と通常の交際の区別がつきにくいんです。しかも奉行所に訴えて出るのが無料だったので民事裁判の件数が多く、ひどく待たされます。手続きも煩雑ですから、裁判にかかわった町人は役人にうまく取り計らってもらうために包みを渡しました。ごく日常的な習慣ですね。吉兵衛の賄賂が問題になったのは、日頃の遊蕩ゆうとうや奢侈しゃしも一因でしょう。江戸の役人にしたら、最も嫌いなタイプの大坂人ですから(笑)。

──吉兵衛だけでなく、登場人物全員が一癖も二癖もありました。ほとんどが実在の人物なのに、小説のキャラクターより個性的で、こちらの期待以上のことをやってくれます。

朝井:実際の事件がフィクションのように面白いので、そのぶんキャラクターの造形も派手にしました。これまでなら抑えて書くところを抑えずに、存分に弾けさせてもらいました。ただ、事件の推移は史実に基づいています。たとえば姪の伊波は、大坂の裁判で吉兵衛に都合の良い証言をします。その後に死んでいるので吉兵衛は証言を翻される危険がなくなり有利になるのですが、これも史実です。さらにその後、久佐衛門の妾腹しょうふくの娘・じうが現れ、吉兵衛は自分の息子と結婚させます。なんとあれも史実なんです。

──じうはいかにも怪しいので、架空の人物かと思っていました。

朝井:本当に怪しいですよね。でも実際にいたんです。歴史小説の読者の方はどこまでが史実かを気にされるようで、サイン会などで「あれは史実ですか」と聞かれることがあります。「そこは私が作ったんです」と答えるとがっかりされることがあるので、今回は「作り話みたいですが、すべて実話です」と堂々と言えますが、作家としては複雑です(笑)。

──大坂での判決に不服だった乙之助は、目安箱に訴状を入れ、江戸で裁判になります。吉兵衛は江戸に送られ、牢ろうに入れられていて、かなりのページを割いて牢内の苦労話を書かれていましたね。
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朝井:江戸時代の牢が牢名主を頂点とする階級社会だったことなどは、時代小説を読んでいる方はご存知ですが、よく分からない読者も多いと思うので、そこを知っていただきたいというのもありました。吉兵衛が、牢名主とのやり取りを通して、いかに命とお尻を守りながら(笑)、生き残るかを書くのは楽しかったですね。
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──吉兵衛が、金と口先で牢名主と渡り合い、牢内をサバイバルするところは、大坂商人の面目躍如でした。

朝井:はい。彼は牢内で最も成長しましたね(笑)。事件の裏に、江戸VS.大坂の構図が・・・

──事件そのものはシリアスなのに、出てくるのが濃いキャラクターばかりで、思いもよらない言動をするので全編がユーモラスになっていました。

朝井:執筆前はもっとシリアスにする予定だったんです。全員が大真面目なのに、やはり何がしかの欲が働いて、それに向かって進むことで事態を悪化させていったので、完成したら、あら、ブラック・コメディになっている!って。

──「辰巳屋一件」は、大坂と江戸で裁判になっているので、法廷サスペンス色が強くなると思っていましたが、上方の町人文化や、大岡越前が行った経済政策なども複雑にからんでくるので驚きました。

朝井:吉兵衛は、江戸で訴状に書かれた内容を認めるように強要されます。自白優先という日本の司法の問題点はこの頃からあったのかと思っていたら、吉兵衛だけが自白を拒否していることが分かりました。なぜ吉兵衛が粘ったのかを探っていたら、事件の裏側が見えてきたんです。

──その裏側の一つが、貨幣改鋳問題でした。江戸時代の経済は、江戸は金立て、大坂は銀立てで動き、金と銀の交換レートは常に変動していました。長く銀高基調だったので、大岡は銀安、金高にしようと貨幣の改鋳を断行します。辰巳屋の事件の背景に、江戸(金)VS.大坂(銀)の構図があったというのは興味深かったです。
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朝井:大坂は幕末まで「天下の台所」だったと言われますが、時代が下ると江戸に送られる米も増え、大坂経済は傾いていきます。この事件は、将軍が大坂の動向を気にし始めたことで大坂と江戸の均衡が崩れ、江戸が台頭する切っ掛けになったとの解釈もできるんです。また享保時代は、唐金屋のような朱印船貿易をしていた頃からの老舗と、五代将軍・綱吉の時代に台頭してきた新興勢力が混在していました。老舗の唐金屋と新興の辰巳屋の戦いも吉宗の時代を象徴していたので、起こるべくして起こったのかもしれません。ただ私は数字に弱いので、経済問題には、あまり踏み込みたくなかったんですが(笑)。
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──珍しい牡丹ぼたんを媒介にして、吉宗と唐金屋が結び付いていきます。(ですから著書表紙に善玉と悪玉を思わせる牡丹が描かれているのでしょう・・・ブログ筆者注釈。)この二人が結託したことで、吉兵衛は次第に追い込まれていきますが、これは史実なんですか。
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朝井:吉宗は植物好きで有名で、だから上方の商人が珍しい牡丹を献上したという記録が残っています。実は「辰巳屋一件」を書きたいと思ったのは、この牡丹がそもそものきっかけなんです。牡丹を贈ったのが、吉兵衛と敵対する乙之助の父・唐金屋だと知った時、事件には裏があると確信しました(笑)。当時の珍しい植物は現代まで伝わっていないものも多いので、そこはフィクションを広げやすかったです。
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──作中では、徳川将軍家には代々「花癖かへき」があったとされていましたが、この指摘にも驚きました。

朝井:江戸に入った家康は城やその周辺を開発しますが、その次に作ったのがお花畑なんです。しかも武家風の庭ではなく、草花を植えた〝ガーデン〟だったんです。

──この事件が不可解なのは、寺社奉行だった大岡が商家の相続争いという管轄外の案件を裁いたことでした。この謎の背景に、将軍と唐金屋には親密さがあったという朝井さんの説を読んで納得できました。

朝井:「大岡日記」を読むと、本当に辰巳屋を気にかけていたことが分かります。何を想っていたかは書いてありませんが、とにかく回数が多いんです。吉宗は唐金屋と結び付き、左遷されていた大岡は復権の機会をうかがっていたはずなので、そこに「忖度」の構図が見えてきました。
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──大岡が痔だったとありましたが……これは史実なんですか。

朝井:史実です(笑)。史料を読んで、大岡がスーパー官僚だったと実感しました。吉宗は江戸市中に桜を植えるように命じますが、実務を指揮したのは大岡なんです。そのほかにも土木事業や貨幣改鋳などを手掛けていますから、あれだけ仕事をしていればお尻も悪くなるだろうと思って書いていたら、後で史実と分かって驚きました(笑)。

──「忖度」「中間管理職の悲哀」、現代日本に続くひな形がすでに・・・。将軍には無理難題を押し付けられ、部下の尻拭いもしている大岡には、現代の中間管理職と重なる悲哀を感じました。

朝井:権力を握った人間が考えることや部下が上役の思惑を忖度する構図など、人は変わらないということなんでしょうね。感情や物事の捉え方も、あの頃に現代まで続く日本人のひな形ができたのかもしれません。

──中盤以降は、巨大な権力が結託して吉兵衛という小さな個人を圧殺していきます。これは現代でも起こりうるので、恐ろしく感じました。

朝井:そう言っていただけると嬉しいです。私は、物語が現代に通じていると判断するのは読者であって、自分がそう考えて書くのは違うと思っているのですが、連載中に森友問題が起きました。事件が大きくなる過程は辰巳屋一件と似ていて、権力の構造が事件を悪化させるし、トカゲの尻尾切りは今も昔も変わらないですね。森友問題はすぐに下火になると思っていたので、単行本が出る頃まで続いているとは想像もしていませんでしたが。

──吉兵衛は終盤になると、お白洲で最後まで抵抗し、自分を窮地に追い込んだ黒幕とその弱点を推理します。法廷サスペンスとしても、本格的なミステリとしても面白かったです。土壇場にまで追い込まれた吉兵衛が一矢報いるラストは、痛快でした。
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朝井:本当に一矢だけですけどね(笑)。江戸時代のお白洲は、事前に取り調べた書面だけで審議を進めるので、下手人が証言することはありませんでした。ただ吉兵衛は最後まで書面の内容を拒否し続けたので、法廷での尋問があったのでは、そこで黒幕と対決をしたのではないかと考えました。吉兵衛の支援者が法廷の外で奉行所の役人に賄賂攻勢をかけたのも史実で、それがゆえに江戸の官僚も巻き込んでの大疑獄事件に発展してしまったんです。

──本書は、朝井さんの作品では、一番エンタメ色が強くなっていませんでしたか。

朝井:ええ、舞台も登場人物も派手で大仕掛けですから、書いていて痛快でした。読者の皆様にも、存分に楽しんでいただきたいです!
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ところで、この「悪玉伝」は、第22回司馬遼太郎賞を受賞していますが、贈賞理由は・・・
元文五年(一七四〇)に起こった辰巳屋騒動に取材した物語。従来悪人と評されることが多かった吉兵衛を主人公に事件をとらえ直し、当時の大坂商人の洒脱で粋で度胸あふれる生き様を描き出した。事件の年には大岡越前による貨幣の改鋳が行なわれたように、江戸経済は大きな曲がり角にさしかかっていた。そうした金銀貨幣事情も背景とし、大坂と江戸との経済的なせめぎ合いもうまくとらえている。濡れ衣を着せられて投獄された吉兵衛のシーンは出色で、息を呑むばかりである。その中を生き抜く吉兵衛の姿に、大坂商人の心意気と懐の深さが現れていて、ラストのカタルシスにつながっている。物語性の豊かさや面白さと共に、批判されがちだった大坂商人の気質を肯定的にとらえ直したことや、ディテールの描写、実感の把握が優れていることも高く評価された。
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いゃあ、司馬遼さんも朝井さんのような作家が大阪で頑張っているのをきっと喜んでおられるとでしょうね。今回は私が蘊蓄を傾けるより皆さんの書かれたのを引用させて頂きました。多謝々々!
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